COPDの最新治療
COPDの最新治療
THE SCIENCE OF COPD: OPPORTUNITIES FOR COMBINATION THERAPY
The Proceedings of the American Thoracic Society Volume 2, Issue 4 2005
慢性気管支炎では気道 過分泌は気道閉塞の原因となるか
COPDの初期では気道過分泌は気道閉塞の原因とはならないようだ。それは、肺機能正常の喫煙者における気道分泌はその後のCOPDの進展を予測しないからだ。
1.Pathogenesis of Chronic Obstructive Pulmonary Disease
GOLDの病期分類にて閉塞性障害はないが症状を有するStage 0は全例、湿生咳嗽を認めた。
Stage 0例が5年後あるいは15年後にStage1以上のCOPDを発症するORは 1.1 (95% confidence interval [CI] 0.9-1.4) と 1.2 (95% CI 0.9-1.6)で、湿生咳嗽はCOPD発症の危険因子とは言えない。
気管支拡張剤投与後の肺の生理的 変化は1秒率や1秒量では評価できないかもしれない
2. Chronic Obstructive Pulmonary Disease Outcome Measurements
What's Important? What's Useful?
COPD に気管支拡張剤投与するとFlow-volume 曲線は右(低肺気量位)にシフトするため1秒量の増加はわずかでもinspiratory capacityは有意に増加する。
15)O'Donnell DE. Assessment of bronchodilator efficacy in symptomatic COPD. Chest 2000;117:42S-47S.
健常人では運動によりICは増加するが、COPDでは運動時には肺の過膨張により、ICは低下する。
Beta2刺激薬の連用に伴う気道過敏性の亢進のメカニズムを探る
Beta-agonis により気道は拡張しますが、 beta2 刺激薬の 連用に伴い気 道過敏性は 逆に亢進さ れます 。この気 道過敏性の亢進は以前よりbeta2受 容体の desensitizationが原因とされています。Beta2受 容体は G-protein-coupled receptors (GPCRs)の1つですが、beta2 受容体の desensitizationの主なメカニズムは1)様々なキナーゼによる受容体のリン酸化にともなう G-proteinとの分離、2)受容体の細胞表面からの隔離、 3)受容体数のdounregulasionが考えられています。 つ まり、GPCRs は無 数の信号による細胞 の反応を制御するという重要な機能を持っているわけです。
気道平滑筋 はGαs-coupled receptors(beta2受 容体 、PGE2受 容体、vasoactive intestinal peptide 受 容体) により拡張、Gαq-coupled receptors (M3 受 容体、TXA2受 容体、5-HT2 受 容体) により収縮するよう制御を受けていますが、 beta2受 容体はagonistなしでも自動的に活性化し信号を発していま す(termed R*)。
Beta受 容体遺伝子を除去したノックアウトマウス(betaAR-/-)ではメサコリンやトロンボキサンアナログ(U46619)の刺激でPenh(気道抵抗に相 当)がwild-typeより 減少しました。
Beta受 容体遺伝子を過剰発現したマウス(betaAR-OE)ではアセチルコリンの刺激で気管支の張力はwild-typeより増加しました。つまり、 気道平滑筋では beta 受 容体により Gαq-coupled receptorの刺激伝達は調節 されていることがわかりました(cross talk)。すなわち、beta2刺激薬の 連用に伴うbeta2受 容体の desensitizationが気道の拡張効果を弱めることで気 道過敏性が亢進すると考えられてきましたが、beta受 容体と Gαq-coupled receptorとのcross talkによる 気道の収縮の調節が気 道過敏性の亢進のメカニズムと考えられるのです。
喘息に比べCOPDでのステロイ ドの効果が弱いのは喫煙によるoxidative stressが影響している
Histone deacetylase (HDAC)はクロマチンの構造を変化させることで、ステロイドによるサイトカイン産生抑制に大きく関与する。また、喫煙はHDAC活性を低下させ、炎症反応は亢進しステロイドの効果は減弱する。
COPD 患者の末梢肺組織のHDAC活性と1秒量とは有意な相関を認めた。
Western blottingによる末梢肺組織のHDAC2蛋白レベルはCOPDの臨床病期の進行に伴い減少した。
喘息患者の気管支生検組織では健常喫煙者同様、HDAC活性は低下していなかった。
Beta2刺激薬はステロイド剤の効果を増強する
気管支喘息の治療に際して吸入ステロイド単独よりも、長時間作動型beta 刺激薬(LABA)を併用するとより効果的なことはよく経験する。それは、LABAはbeta2受容体を刺激すると結果的にステロイド受容体の構造変化を起こし、ス テロイド受容体の感受性が増すことと、ステロイド受容体の細胞質から核への移動がLABAにより促進されることによる。
ヒ トの気道平滑筋をbeta刺激薬で刺激すると、IL-8が放出さ れた。すなわち、気 管支喘息にbeta 刺激薬を単独使用すると気道炎症をおこす可能性がある。
ヒトの気道平滑筋に対するTNF刺激によるIL-8放出効果はステロイドにて抑制されるが、ステロイドにbeta刺激薬併用すると、この抑制効果は増強した。
COPDでの副交感神経興奮の原因を考える
6. The Role of Vagal Afferent Nerves in Chronic Obstructive Pulmonary Disease
COPDにおける気管支平滑筋や気道分泌の亢進の主な原因は副交感神経の興奮状態にあ る。この副交感神経の興奮の原因を考える。肺の伸展感受性受容 体はrapidly adapting receptors (RAR)とslowly adapting receptors (SAR)の2つがあるが、RARは副交感神経を興奮させ、SARはそれを抑制させる。呼吸数の増加に伴うRARの興奮は気道の副交感神経の興奮をもたら し、CO2の増加はSARを抑制し副交感神経は興奮状態となる。
また、気道のnociceptors(侵害受容器)nervesには上気道に位置し機械的 刺激にて咳反射を促すtouch-sensitive cough fibersと、温度、有害な機械的外力や組織障害、炎症の際に生ずる多くのautocoidsに反応し、無呼吸、瀕呼吸、気道粘液産生、気道収縮、咳を 起 こすbronchopumonary C-fiberがある。この迷走神経C-fiberは鼻腔から肺胞までの気道に認められるが、COPDでの組織障害 やCO2上昇にて興奮状態にある。Furosemideの吸入はC-fiber活動性を抑制し、COPDの気管支を拡張させ、呼吸困難感を改善させた。
51)Ong K-C, Kor A-C, Chong W-F, Earnest A, Wang Y-T. Effects of inhaled furosemide on exertional
dyspnea in chronic obstructive pulmonary disease. Am J Respir Crit Care Med 2004;169:1028-1033.
COPD (中等度と重症)にfurosemideを吸入させるとFEVとFVCはplacebo(0.9% saline)吸入に比べ有意に増加した。
COPD にfurosemideを吸入させconstant-loadの運動負荷をか けたときの呼吸困難感 (VAS score)はplacebo吸入に比べ、有意に低かった。
Proteinase阻害剤と抗 oxidant剤のCOPDの治療への可能性
7. Proteinases and Oxidants as Targets in the Treatment of Chronic Obstructive Pulmonary Disease
Proteinase阻害剤と抗oxidant剤をCOPDの治療に応用するには、 proteinaseとoxidantの生物学的作用を考慮すべきである。特にproteinaseは自然免疫、抗炎症作用、抗腫瘍作用、転移抑制などの 作用があるため、proteinase阻害剤をCOPDに試みるべきかは未だ明らかではない。抗oxidant剤はN-acetylcysteine がCOPDの痰の粘稠度とを低下させ、細菌のcolonizationを抑制させる他、再入院率を有意に低下させる。
55 歳以上のCOPDにて入院した1219例にN-acetylcysteine を退院後直ち(2日以内) に投与した群 (465例)では有意に再入院率が低かった(95% CI : 0.53-0.85)。