自然免疫と喘息

 

TWENTY-SECOND TRANSATLANTIC AIRWAY CONFERENCE: INNATE IMMUNITY AND ENVIRONMENTAL AIRWAY DISEASE

The Proceedings of the American Thoracic Society Volume 4, Issue 3 2007



1. CD14、Endotoxinと喘息

Fernando D. Martinez CD14, Endotoxin, and Asthma Risk: Actions and Interactions

Proc Am Thorac Soc 2007 4: 221-225.


 喘息患者のCD14を規定する遺伝子多型をSNPで1999年に最初に報告した。CD14は感染性微生物にたいする反応に関与しているが、その後、喘息に関連した研究が多くなされてきた。Hygiene 仮説(幼児期の感染はアレルギーの進展をおさえる)も提唱されたが、異論もある。



 上の図のとおり、Endotoxin暴露の多い場合(3.Tertile)にはCD14/-159のCC homozygoteで感作が強く抑制された。また、CC homozygoteでEndotoxin暴露の増加に伴い感作は抑制された。

 また、他の報告では有意差はないが、TT homozygoteでEndotoxin暴露が多いと喘息の重症度が高かった。


<講 評>

 Endotoxin暴露によりIgEの産生がCD14を規定する遺伝子多型により異なるというわけだが、これが以後の喘息発症にどのように関与するのだろうか。喘息の原因となるアレルゲンに対する反応も同様のパターンとなるということか。



2. 腸内細菌と喘息予防

Jennifer Yoo, Haig Tcheurekdjian, Susan V. Lynch, Michael Cabana, and Homer A. Boushey

Microbial Manipulation of Immune Function for Asthma Prevention: Inferences from Clinical Trials.

Proc Am Thorac Soc 2007 4: 277-282.

 

 幼児期の感染はアレルギーの進展をおさえるというHygiene 仮説の論拠として腸内細菌叢が注目されている。小児の便をしらべると、アトピーの多い群ではクロストリジウムが多く、アトピー少ない群では乳酸菌やコーバクテリウムが多かった。これは、乳酸菌が制御性T細胞活性を増加させTH2反応を抑制することによると予想させる。



<講 評>

 腸内細菌に関する論述の前に乳児期のライノウイルス感染が喘息発症の危険因子と述べているが、引用文献 25 はrespiratory  virusesとあるが、ライノウイルスのことのようだ。ライノウイルスが小児の下気道感染をおこすとの指摘である。



3. 埃を食す

Joel N. Kline

Eat Dirt: CpG DNA and Immunomodulation of Asthma

Proc Am Thorac Soc 2007 4: 283-288.

 

 幼児期の感染はアレルギーの進展をおさえるというHygiene 仮説はTh1/Th2のバランスが崩れるためではなさそうである。細菌由来のDNA (CpG DNA) は形質細胞様樹状細胞やB細胞を介してTh1や制御性T細胞を誘導し、Th2細胞を抑制する。



<講 評>

 細菌由来のDNA (CpG DNA)とは 大阪大学 微生物病研究所 -病気のバイオサイエンス- によれば、「細菌由来のDNAと比較して、哺乳類由来のDNAにおいては、シトシン、グアニンが隣り合って存在する頻度が低く、また、その大部分がメチル化されている。すなわち、非メチル化CpGを含むDNA(CpG DNA)は、細菌特有の分子構造であるということになる。」とある。また、Eat Dirtを埃を食すを訳したが、文献 38 にあるように、マウスではCpG ODNsの経口投与でも喘息予防に有効であった。人への吸入投与は気道反応性に効果的でなかったが、さらなる発展が期待される。



4. 樹状細胞の気道からリンパ節までの遊走  


Donald N. Cook and Kim Bottomly

Innate Immune Control of Pulmonary Dendritic Cell Trafficking

Proc Am Thorac Soc 2007 4: 234-239.

 

 気道は皮膚、消化管と並んで外界に多くさらされている臓器である。ガス交換のためには、外界からの粉塵などの刺激に過剰に反応しないようなメカニズムが必要である。これが免疫学的寛容であるが、樹状細胞がリンパ節に存在するナイーブなT細胞に抗原提示する際に、樹状細胞の成熟化が免疫学的寛容に関与している。しかし、樹状細胞の気道からリンパ節までの遊走と免疫学的寛容についは未だ明らかではない。




<講 評>

 FTY720は気管内投与により喘息モデルの気道反応性を低下させる 。これは、FTY720の経気道的投与が喘息モデルにおける樹状細胞の所属リンパ節への移動 を抑制することによる。しかし、寛容性樹状細胞は制御性T細胞を誘導する働きがあることから、FTY720が炎症を助長する危険もあるだろう。




5.オゾンと自然免疫  


John W. Hollingsworth, Steven R. Kleeberger, and W. Michael Foster

Ozone and Pulmonary Innate Immunity

Proc Am Thorac Soc 2007 4: 240-246.


 外気中のオゾンは人体の健康被害の原因となる。合衆国では120-80 ppb (0.12-0.08ppm)を基準としている。しかし、10 ppb の増加で死亡率が0.3%増加する。オゾンは呼吸器系の被害を引き起こす。オゾンは気道上皮、粘膜繊毛クリアランス、貪食作用などの自然免疫に障害を及ぼす。これにはToll-like receptorsが関与している。




<講 評>

 オゾンは消毒、消臭効果など http://pats.atsjournals.org/cgi/content/full/4/3/234/FIG1 があり、最近ひろく利用されつつ ある。日本の外気の許容基準は 0.1 ppm であるが、健康被害については一般的には知られていないのではなかろうか。




6. 補体と喘息


Marsha Wills-Karp

 Complement Activation Pathways: A Bridge between Innate and Adaptive Immune Responses in Asthma

Proc Am Thorac Soc 2007 4: 247-251



 


 


A 寛容

 アレルゲン感作時に、ある種の感染性物質やアレルゲンによりC5aが優位に誘導されると、形質細胞様樹状細胞が活性化され、骨髄性樹状細胞は抑制され、制御性T細胞をかいして、寛容が成立する。


B 感作

 オゾン、喫煙、RSウイルス、粉塵などはC3aを誘導し、C5aよりC3aが優位な状態ではアレルゲンは骨髄性樹状細胞が増加し、吸入アレルゲンの感作が成立する。



<講 評>

 "埃を食す "でも述べたが、形質細胞様樹状細胞の活性化が喘息進展予防には重要であるが、これに、補体が大きな役割を演じているようだ。 日本の研究所 でC3/C5関連遺伝子多型と喘息との関連が報告されている。



7. サーファクタントの免疫調節作用


Amy M. Pastva, Jo Rae Wright, and Kristi L. Williams

Immunomodulatory Roles of Surfactant Proteins A and D: Implications in Lung Disease

.Proc Am Thorac Soc 2007 4: 252-257




  サーファクタント蛋白SP-AとSP-DはT細胞や樹状細胞に作用し、過剰な免疫反応を抑える作用がある。すなわち、T細胞の増殖を抑制したり、樹状細胞の抗原提示作用を抑制する。



<講 評>

 サーファクタントと喘息についての論述はなかったが、サーファクタント関連遺伝子多型と易感染性との関連は広く知られている。また、急性呼吸器疾患では、炎症を抑制しつつ、病原微生物のクリアランスを促進するという、免疫機能調節作用がある。将来はサーファクタントの投与がさまざまの呼吸器疾患に応用されるだろう。




8. 核内高分子と自然免疫


David S. Pisetsky

 The Role of Nuclear Macromolecules in Innate Immunity

Proc Am Thorac Soc 2007 4: 258-262





  核内高分子は細胞外に分泌されると自然免疫機能を持つ。とくにHMGB1蛋白質はショックに関与し、細胞死の過程で分泌され自然免疫を誘導する。


<講 評>

 核内分子が細胞外に放出のされかたは、アポトーシスとネクローシスでことなるのか、歯切れの良い論述は示されていない。実験的に細胞死を起こす手法に問題があると。いずれにしても、ショック治療にもかかわる重要な課題だ。



9. ウイルス感染後喘息悪化と自然免疫


Sebastian L. Johnston.

Innate Immunity in the Pathogenesis of Virus-induced Asthma Exacerbations

Proc Am Thorac Soc 2007 4: 267-270.




  喘息患者ではウイルス感染(ライノウイルス)後に急性増悪をおこす。それは、喘息患者ではウイルス感染を終息させるためのアポトーシスに障害があるためである。その原因はインターフェロンタイプ1 (IFN-beta) とタイプ3 (IFN-lambda) の産生障害が喘息患者で認められるからだ。


<講 評>

 喘息患者でのインターフェロン産生障害のメカニズムがまだ明らかではないが、幼児期での感染機会の低下が関与しているのではないかと、ここでも推察している。









10. TLR-9刺激剤


Arthur M. Krieg.

Antiinfective Applications of Toll-like Receptor 9 Agonists.

Proc Am Thorac Soc 2007 4: 289-294.)



 TLR-9を合成CpG:ODNs投与により刺激すると、自然免疫や獲得免疫が増強される。臨床研究として、C型肝炎の治療やワクチンのアジュバンドなどが検討されている。副作用としては、インフルエンザ様症状や皮膚反応がある。自己免疫疾患に対する作用がまだ明らかでない。


<講 評>

 動物実験では結核菌に対する作用も認められているが、C型肝炎感染初期でのウイルス減少効果がみられることより、たとえば、多剤耐性結核の潜伏感染に対して、臨床応用できないだろうか。

 
 
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