COPDのリハビリテーション

 

COPDのリ ハビリテーション : STATE OF THE ART

Thierry Troosters, Richard Casaburi, Rik Gosselink, and Marc Decramer

Pulmonary Rehabilitation in Chronic Obstructive Pulmonary Disease

Am. J. Respir. Crit. Care Med. 2005; 172: 19-38.



1、呼吸リハビリテーションにて吸気筋力を改善させると呼吸困難感は軽減する。



 42) 最大吸気筋力の30%の負荷で吸気筋トレーニングした結果、呼吸困難感、歩行能力が改善した。


Twenty patients (aged 62+/-1 yrs; forced expiratory volume in one second/forced vital capacity (FEV1/FVC) 36+/-2%) were trained 30 min daily for 6 days a week during 10 weeks, with either 30% (Group 1) or 10% (Group 2) of peak maximal inspiratory pressure (PI,max) as a training load.




 2、呼吸リハビリテーションにて運動能力の向上がなくても、QOLは改善す る。


 58) 下肢の持久力強化プログラムと全身の美容体操プログラム (Low-Intensity Peripheral Muscle Exercises) は、同様に、呼吸困難感 (TDI : transitional dyspnea indexes) 、ADL (PFSS : Pulmonary Functional Status Scale)、QOL (CRQ : Chronic Respiratory Disease Questionnaire) を短期間のうちに改善した。




 


 3、呼吸リハビリテーションにて運動能力が向上すれば、その後は長期間 QOLの改善が維持される。


 52)12ヶ 月間の外来呼吸リハビリテーション(3ヶ月:呼吸訓練、3ヶ月:運動療法、6ヶ月:維持療法)終了後、12ヶ月間、QOLの改善が維持された。
対照群(n=30)から10例が在宅酸素療法に移行したが、呼吸リハビリテーション群(n=30)からは2例が移行したにすぎなかった(p=0.03)。




 


 4、呼吸リハビリテーションにて生命予後が改善するか。

 呼吸リハビリテーションにて生命予後が改善するかは未だ明らかではない。それには1000例程度の大規模スタディが必要であるが、COPD患者の活 動能力は 入院生存率に関与する因子であることからすれば、急性増悪にて入院後のCOPD患者に対する呼吸リハビリテーションは生命予後を改善させるかもしれな い。

 81) COPD 患者の活動能力を一日あた りのエネルギー消費量をして算出すると、232 kcal/day以上のエネルギー消費をともなう日常生活を行っているCOPD患者は急性増悪による入院の危険率(Cox regressionのhazard ratio)が0.54と低かった。
 


5、COPDの運動耐用能の低下はガス交換障害、肺高血圧症の他、筋力低下が原因と考えられる。



 86)気管支拡張剤(ipratropium)投与による運動能の改善(endurance time)とプラセボ投与後の運動負荷後の下肢筋力とは相関した。す なわち、運動後も筋力が保たれていれ(非疲労群)ば、気管支拡張剤投与後の肺機能の改善による運動能の改善が見込まれる。逆に、肺機能が改善しても運動能の改善が見込めないのは、筋力低下(疲労群)によると言える。
 疲労群は気管支拡張剤投与により1秒量は改善するにも関わらず、endurance timeは変化しない。これに対して、非疲労群では気管支拡張剤投与により1秒量は改善によりendurance timeは改善した。以上により、COPD患者の運動能力の低下の原因として、下肢筋疲労が考えられる。






6、筋萎縮はCOPDの予後不良因子である



 93) COPD患者の大腿部の筋肉量をCT(MTCSA)にて検討した。MTCSAはBody Mass Index以上にCOPDの生命予後不良因子であった。





さらに、%FEV1が50%未満の重症COPDでは、MTCSAの低下は重要な生命予後不良因子となった。




a、COPD患者はサイトカインの増加に伴い、体重が減少しなくても、筋肉量は減少す る。

 93-21) COPD患者の筋肉量をcreatinine-height index (CHI)にて検討した。CHIの低下したCOPD患者ではBody Mass Indexの低下がなくとも、IL-6、TNF alphaなどのサイトカインの増加を認めた。



Circulating concentrations of IL-6 and IL-6 soluble receptor in patients with a normal BMI and normal CHI (n = 30) (dotted columns), a normal BMI and low CHI (n = 13) (open columns), and a low BMI and low CHI (n = 16) (hatched columns).


サイトカインの増加に伴い、筋肉量が減少する原因としては、タンパク質の異化の亢進によると思われる。

 


7、COPD の骨格筋機能異常の原因はなにか。

 123)COPD の急性増悪にて入院した患者では大腿四頭筋の筋力 (QPT) 低下が認められ、interleukin 8と逆相関していた。




Inverse correlation between quadriceps peak torque (QPT, expressed in Newton-metres, Nm) and logarithmically transformed interleukin 8 (log CXCL8) in hospitalised (day 3, ●) and clinically stable patients with COPD (○).


大腿四頭筋の 筋力低下は必ずしも体重減少が原因ではない。すなわち、BMI 24kg/m2以上の患者のQPTは予測値の61%と低下していた。




 8、COPDに十分な生理学的な効果をもたらす程のトレーニングは可能か。


COPDでは換気機能障害が強いために運動が制限されている場合には、最大運動レベルでも骨格筋の代謝率は上昇しない。しかし、筋肉が萎縮していれば運動 により代謝率は上昇する。そこで、中等度のCOPDでは最大仕事量の75%の運動療法にて生理学的に有意な効果を認めた (34) 。 らに、重症COPDでも同様に効果が得られた (37) 。 た、COPD患者では平均して最大仕事量の約80%の運動量は維持できる (159) 。

それでは、運動強度が維持されているかをモニターするにはどうしたらよいか。



 164)COPD の運動療法の際に運動強度を処方する場合、Borgスコアを用いた呼吸困難度 (スコア4-6) を利用すれば最大酸素摂取量の約80%が維持できた。




 

9、非侵襲的陽圧呼吸をCOPDの運動療法に併用すると最大運動耐用能は幾分改善する。


 191) 測1秒率が27%の重症COPDの運動療法に際して、非侵襲的陽圧呼吸を併用することで運動強度は増し、最大運動耐用能は未使用に比べ幾分改善した(P= 0.09)。



Responses to incremental exercise test before and after training. Error bars refer to SE values.


 運動療法後、平均運動期間は延長し、心拍数、乳酸値、呼吸数は減少したが、非侵襲的陽圧呼吸の使用による有意な変化は認めなかった。





10、呼吸筋トレーニングの有効性


 42)でも示したように吸気筋トレーニングは呼吸困難を軽減する他、吸気筋の能力を改善する。しかし、運動耐用能、QOLを改善するかは明らかではない。 COPDでは肺の過膨張のために吸気筋力は低下しているが、呼吸筋はいわゆる deconditioningはおきてはいないので、吸気筋トレーニングはガイドラインにて単独ではルーチン化されてはいない。


 253)中等症から重症の安定期のCOPD (%FEV1 49.6±3.4)において、最大酸素摂取量の108.1±2.8%の運動負荷後に横隔膜の疲労を頸部からの刺激によるTwitch transdiaphragmatic pressure (Pdi,tw) で検討した。負荷前に比べ負荷後のPdi,twに有意な変化はなかった。すなわち、中等症から重症の安定期のCOPDでは運動負荷後の横隔膜の疲労は明らかではない( deconditioningはおきてはいない)。





11、運動療法はすべてのCOPDに試みるべきか


 運動後に乳酸の蓄積が認められる例が運動療法の適応であるとされていたが、 運動後に乳酸の蓄積のない例でも運動療法は有効である。より効果的な対象は筋力低下があり、換気機能に余力のある(1-[VEmax/MVV×100) 例である。



 166) 中等症から重症だけでなく軽症のCOPDに対しても運動療法は運動能力、QOL改善に効果的である。















 
 
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